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行政書士
事務所は
一般貨物Q&A.その7.運送業の開業にあたり備えるべき要件は(人員編①)
このページでは、一般(又は特定)貨物自動車運送事業を開業するための要件のうち、人員に関わることについ
て書いていこうと思います。
Q33.運送事業の経営許可を受けるには、どういった「人員」を確保する必要がありますか?
A33.必要となる人員としては
①運送事業に専従する常勤の取締役・業務執行社員(会社ではない場合は、個人事業主)
②運転者(運転する貨物自動車に対応する運転免許が必要です)
③運行管理者(運行管理者の資格が必要です)
④整備管理者(整備士試験の合格又は整備管理等の実務経験が2年以上で且つ選任前研修の修了が必要
です)
が挙げられます(車両台数が5台未満の霊柩の運送事業の場合は、③④に例外があります)。
その他の人員としては、必要に応じて
⑤運行管理補助者(③の補助をする人です。運行管理者の資格又は基礎講習を修了していることが必要
です)
⑥整備管理補助者(④の補助をする人です。資格等は特に要求されていません)を確保する必要が出て
くる場合があります。
Q34.「運送事業に専従する常勤の取締役・業務執行社員(会社ではない場合は、個人事業主)」について教
えて下さい。
A34.「 運送事業に専従する常勤の取締役・業務執行社員」とは、会社の経営を担当する常勤の取締役・業務
執行社員(以下、ここでは「取締役」といいます)の中で、運送事業に専従する方のことです。
運送事業を「専業」とする会社の取締役は、自ずと運送事業に専従することになりますが、他の事業を「兼業」
する会社の取締役の場合は、兼業事業に専従してしまう可能性があります。
その結果として、運送事業に関しては完全に従業員任せで、取締役は誰一人として日々の運行管理・整備管理の
監督もしていないということがあれば、その会社に「輸送の安全」を第一とする、運送事業の経営は期待できま
せん。
そこで、最低でも取締役1名以上は、「運送事業に専従」させることになっています。
なお、この「運送事業に専従する常勤の取締役」が法令試験を受験し、合格することが、運送事業の経営許可を
受けるためには必要です。
運送事業を経営する会社の取締役は、運送事業に関係する法令について、一定の知識を有していなければなりま
せん。
一定の知識を有することを確認するための試験が、法令試験です。
*「取締役」とは株式会社、有限会社における業務を執行する役員のことです。
「業務執行社員」とは持分会社(合名会社、合資会社、合同会社)における業務を執行する役員のことです。
株式会社や有限会社の株主(会社の出資者のことです)は、当然に取締役になるわけではありません。
他方、持分会社においては、社員(持分会社における会社の出資者のことです。)は、定款で別段の定めがあ
る場合を除き、当然に業務執行社員となります。
*「常勤の取締役・業務執行社員」とありますが、これには法律的な定義はないと思われます。
「他の従業員と同じように毎日出社して、運送事業の経営に関する業務を行う取締役・業務執行社員」であれ
ば、ここでいう「常勤の取締役・業務執行社員」といえます。
Q35.当社は、運送事業の経営許可を申請するにあたり、運送業界で就労していた従業員の「Aさん」を「運
送事業に専従する取締役」にしようと考えています。
「Aさん」を取締役にするためには、どのような手続きが必要になりますか。
A35.まずは、「Aさん」に「欠格事由」がないかを確認して下さい。欠格事由がなければ、 「(臨時)株主
総会の招集通知→株主総会の開催→Aさんを取締役に選任する議案を株主の賛成により可決→Aさんが
取締役への就任を承諾→役員変更の登記申請」の流れで、手続きをして頂くことになります。
取締役に関する「欠格事由」には「取締役の欠格事由」と「運送事業の許可の欠格事由」があります。
「取締役の欠格事由」に該当する方はそもそも取締役になれません。
「運送事業の許可の欠格事由」に該当する取締役(顧問、相談役など、事業の経営に関与し、実質的に影響力を
及ぼす者を含みます)がいると、運送事業の許可を受けることができません。
つまり、運送事業を経営する場合は、これらの欠格事由に該当する方を取締役にすることはできませんので、ま
ずは取締役候補者の方の欠格事由の有無を確認する必要があります。
なお、私が今まで業務として携わってきたお客様で、取締役等が欠格事由に該当した経験はほとんどないのです
が、該当する場合は許可を受けられませんので、ご面倒ではございますが、取締役等の選任の手続の前に、事前
に確認して頂くようお願い致します。
まずは、「取締役の欠格事由」から列挙します。①~④に該当する人は、取締役にはなれません。
①法人
(解説)「法人」とは、「会社」などの観念的な法的人格のことです。法人は、取締役にはなれません。
取締役になれるのは、人間(人間のことを「自然人」といいます)のみです。
②成年被後見人、被保佐人、外国の法令上、これらと同様に取り扱われている者
(解説)成年被後見人、被補佐人とは、認知症などにより、物事の判断能力が著しく低下している方のうち、
家庭裁判所から「後見開始の審判」や「保佐開始の審判」を受けた方のことで、これらの方には成年後
見人や保佐人といった代理人(法定代理人といいます)が付され、法定代理人が本人に代わって、お金
の管理や契約事務などを行います。
成年被後見人や被補佐人は、法務局で「成年後見登記」というかたちで登録がされています。
したがって、成年被後見人や被補佐人ではない人は、法務局で「登記されていないことの証明書」とい
う、成年後見登記がされていないことを証明する書類を取得することで、自分が成年被後見人や被保佐
人ではないことを証明することができます。
③会社法、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律、金融商品取引法、民事再生法、外国倒産処理手続の承
認援助に関する法律、会社更生法、破産法の一定の罪を犯し、刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執
行を受けることがなくなった日から2年を経過しない者
(解説)上記7つの法律に規定されている罪を犯した場合に、欠格事由に該当することがあります。
「刑に処せられ」とは、「刑に処する判決が確定した」ことをいいます。
「執行を受けることがなくなった」とは、「刑の言い渡しを受けたが、「時効」や「恩赦」などによ
って刑の執行が免除された」ことをいいます。
つまり、「刑に処せられ、その執行を終わった日から2年を経過しない者」というのは、「刑に処す
る判決が確定し、刑の執行を受けた人は、刑の執行が終わった日から更に2年間、取締役になれませ
ん」ということです。
また、「刑に処せられ、その執行を受けることがなくなった日から2年を経過しない者」というのは
「刑に処する判決が確定したが、刑の執行が免除された人は、刑の執行が免除された日から更に2年
間、取締役になれません」ということです。
ちなみに、執行の免除と似た言葉で、「執行猶予」というものがありますが、こちらは取扱いが異な
ります。
執行猶予を受けた場合は、執行猶予期間が満了すれば、満了日の翌日から、取締役になることができ
ます。
④③以外の法令の規定に違反し、禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けること
がなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く)
(解説)③で述べた7つの法律以外の法令の規定に違反し、それにより刑に処せされた人で、その刑が「禁錮
以上の重さである場合、その人は刑の執行を終わるまで又は刑の執行を受けることがなくなる(≒刑
の執行が免除される)までの間は、取締役にはなれません。
③の場合と異なり、「受けた刑が禁錮より重い場合」に限り欠格事由となります。
また欠格期間も「更に2年間」という延長がありません。
*行政による制裁の種類
法令違反をした場合、違反者に対して何かしらの「行政による制裁(ペナルティ)」が課されることがあり
ますが、この制裁のすべてが「刑罰」というわけではありません。
日本の刑罰には、重い方から順に「死刑・懲役・禁固・罰金・拘留・科料」とあります。
死刑は人の生命を奪うことから生命刑、懲役、禁固、拘留は人の自由を奪う(一定期間刑事施設に収容され
ます)ことから、自由刑、罰金と科料は人の財産を奪うことから財産刑といわれます。
取締役の欠格事由としては、行政による制裁のうち、「刑罰をうけたことがあるか」が問われますので、上
記6つの刑罰を過去に受けているかどうかを確認して下さい。
なお、財産刑である「罰金・科料」と似たような制裁に「過料」というものがあります。
行政にお金を奪われる点では刑罰である罰金・科料と刑罰ではない過料も同じですが、刑罰は「犯罪」に対
する制裁ですが、過料は「犯罪ではないが、義務を怠った」事に対する簡易的な制裁で、過料を受けただけ
では欠格事由には該当しません。
また、過料には犯罪と刑罰について定めた「刑法」や刑事手続きについて定めた「刑事訴訟法」の適用があ
りません。
法令の規定では、罰金の場合は「罰金に処する」、科料の場合は「科料に処する」、過料の場合は「過料に
処する」と使い分けがされています。
ちなみに、運送事業の許可の取消も行政による制裁の一種ですが、刑罰ではありません。
次に、「運送事業の許可の欠格事由」を列挙します。⑤~⑩に該当がある場合は、運送事業の許可を受けら
れません。
なお、運送事業の許可の欠格事由では、取締役などの会社の役員のほか、相談役・顧問などの事業の経営に
関与し、実質的に影響力を及ぼす者についても、検討する必要があります。
⑤1年以上の懲役又は禁固の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から2
年を経過しない者
(解説)③④の解説を参照して下さい。
⑥個人事業主として一般貨物自動車運送事業又は特定貨物自動車運送事業の許可の取消を受け、その取消の日
から2年を経過しない者
(解説)運送事業の許可を取り消された人について、取消の日から2年間は、再度の許可を受けることを制限
しています。
⑦法人が一般貨物自動車運送事業又は特定貨物自動車運送事業の許可の取消を受けた場合で、当該取消に係る
聴聞の通知が到達した日前60日以内にその法人の役員であった者で当該取消の日から2年を経過しない
(解説)運送事業の経営許可を取り消された法人の役員について、取消の日から2年間は、個人事業主として
運送事業の経営許可を受けることを制限しています。
なお、対象となる法人の役員は、許可の取消時点の役員はもちろんのこと、許可の取消に係る聴聞の通
知が到達した日から遡ること60日間の間に、役員であった人も含まれます。
⑧営業に関し成年者と同一の行為能力を有しない未成年者又は成年被後見人であって、その法定代理人が⑤~⑦
に該当するもの
(解説)未成年者(20歳未満の者。ただし、法定代理人(親権者又は未成年後見人)から、運送事業の経営に
つき、営業の許可を受けている 場合を除く)や成年被後見人(②の解説参照)が運送事業の許可を受
ける場合、実際の運送事業の経営は法定代理人が行うことになります(未成年者や成年後見人は行為能
力が制限されているため)。
したがってこの場合は、法定代理人についても、⑤~⑦の欠格事由を検討することになります。
⑨個人事業主として貨物自動車運送事業法、道路運送法違反により、申請日前3か月(悪質な違反については6
か月)又は申請日以降に、自動車その他輸送施設の使用停止以上の処分又は使用制限(禁止)の処分を受けた
者
⑩法人が貨物自動車運送事業法、道路運送法違反により、申請日前3か月(悪質な違反については6か月)又は
申請日以降に、自動車その他輸送施設の使用停止以上の処分又は使用制限(禁止)の処分を受けた場合で、当
該処分を受ける原因となった事実が発生した当時、その法人の業務を執行する常勤役員(取締役のほか、相談
役・顧問などの事業の経営関与し、実質的に影響力を及ぼす者を含みます)であった者
(解説)⑨⑩については、法律の規定にはなく、「公示」に記載があるものです。
旅客自動車運送事業の経営をすでに営んでいる人が、貨物自動車運送事業の経営許可を受けるために、
経営許可申請をした場合には、⑨又は⑩に該当する可能性はありますが、それ以外の場合は考慮する必
要はないと思われます。
さて、以上を検討した結果、取締役候補者の方が欠格事由に該当しないことが明らかになったときは、取締役の
選任手続きを行って下さい。
「(臨時)株主総会」を開催して、「Aさん」を取締役に選任する議案について、株主の議決権の過半数(定款
の中で、可決に必要な議決権 割合が、別途定められている場合はその割合)の賛成が得られれば、「Aさん」
は取締役に「選任」されます。
会社から取締役に選任された「Aさん」が「取締役に就任することを承諾」すれば、「Aさん」はその就任を承
諾した時点で取締役となります。
以上、社内での手続きが済みましたら、会社の本店の所在地を管轄する法務局に、「Aさんが取締役になりまし
た」という内容の、役員変更の登記申請を行い、完了したら、手続きは終了となります。
なお、役員変更の登記申請に必要な書類の案内とその様式については、法務省のホームページからダウンロード
できますので、ご自身で作成ができそうであればご自身で、ご面倒であればお近くの司法書士にご相談下さい。
Q36.今日の記事のソースを教えて下さい。
A36.以下の参照条文をご覧下さい。
このページに書いてあることが「ガセではないか?」と疑われるといけないので、最後に、参照条文をご案内
します。
取締役の欠格事由については会社法331条1項、運送事業の許可の欠格事由については貨物自動車運送事業
法5条及び中部運輸局の公示 一般貨物自動車運送事業及び特定貨物自動車運送事業の申請事案の処理方針に
ついて 平成15年2月28日 中運局公示第277号のⅠ.7.③を参照して下さい。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
町
の行政書士
事務所です