パブコメ「自動車運送事業者に対する行政処分等の基準」の改正について

 

 

 

 

こんにちは。行政書士の鈴木です。

 

さて、今日は一般貨物の事業者さん向けの話です。

昨年、標準貨物自動車運送約款が改正されたことは、ご記憶にありますでしょうか?

改正の主な点は、荷主との関係で、待機時間や附帯作業があれば、運賃とは別の「料金」として請求することができる旨が明記されたことでしたね。

この改正により、今後は一般貨物の事業者さんの売上が向上し、経営が改善されることが期待されています。

また、運転者さんの拘束時間の減少の効果も見込まれ、過労防止の効果が出ることも期待されるところであります。

が、今回はまた別の話です。

先日、自動車運送事業者の行政処分の基準についての改正案が示され、現在、これに関する意見募集(パブリックコメント)が行われております。

今回の改正案の目的は過労の防止であり、これに違反する行為(過労防止関連違反等)を行った事業者に対する行政処分を、従来の2倍以上に引き上げることとしています。

ということで、気になる今回の改正案の具体的な内容について、一緒に見ていくことにしましょう。分量は、A4用紙1.5枚ほどです。

 

               【1枚目】                 【2枚目】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

では、頭から順に見ていきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自動車運送事業の運転者が「過労死の認定件数が」職種別で最も多いとありますが、厚労省の資料を読んだところ、トラック運送業の運転者さんの40%が、1週間の労働時間が60時間を超えているそうです。

労働基準法で定める1週間の法定労働時間は、40時間ですから、1週間で20時間超の残業(時間外労働)をしているということになります。

これを1か月で換算すると、80時間超の残業(時間外労働)をしているということになります。

「発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できる」という通達があり、トラック運送業の運転者さんの40%の方々は、いわゆる過労死ラインにあたる状況で労働をしているといえます。

今回の改正案の背景にはこのような捨て置けない事情があることがわかります。

 

 

では、具体的な改正点を一つずつ見ていきます。

 

 

 

 

 

 

 

労防止関連違反等の具体例として、ここでは「乗務時間等告示の遵守違反(未遵守16件以上30件以下の場合)」を挙げています。

初違反の場合、現行は20日車なのが、改正案は40日車となっています。処分の重さが2倍となっています。

なお、現行の「乗務時間等告示の遵守違反」の行政処分については下記表の通り(適用条項第4項の事項2の部分)です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回の改正案は上記表のうち③の場合のみしか記載していませんが、①②のケースも、改正によって処分が重くなるものと思われます。

 

乗務時間等告示の遵守違反の参照条文を一応挙げておきます。

直接的なものは、下の輸送安全規則第3条第4項の方ですね。

 

貨物自動車運送事業法第17条(輸送の安全)

一般貨物自動車運送事業者は、事業用自動車の数、荷役その他の事業用自動車の運転に附帯する作業の状況等に応じて必要となる員数の運転者及びその他の従業員の確保、事業用自動車の運転者がその休憩又は睡眠のために利用することができる施設の整備、事業用自動車の運転者の適切な勤務時間及び乗務時間の設定その他事業用自動車の運転者の過労運転を防止するために必要な措置を講じなければならない。

 

貨物自動車輸送安全規則第3条第4項

貨物自動車運送事業者は、休憩又は睡眠のための時間及び勤務が終了した後の休息のための時間が十分に確保されるように、国土交通大臣が告示で定める基準に従って、運転者の勤務時間及び乗務時間を定め、当該運転者にこれらを遵守させなければならない。

 

国土交通大臣が告示で定める基準は、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(通称:改善基準告示)」のことです。

改善基準告示の内容は覚えていらっしゃいますでしょうか?

念のため、改善基準告示の4条を簡単におさらいしておきましょう。

 

1.拘束時間

  ①1か月・・・原則 293時間を超えないこと。

         例外 320時間を超えないこと。

        (例外の要件は→労使協定があること×1年のうち6か月が限度×1年間の拘束時間が

                                                     293×12=3516時間を超えないこと。)

 

  ②1日 ・・・原則  13時間を超えないこと。

         例外  16時間を超えないこと。

        (例外の要件は→15時間を超える回数が1週間について2回以内であること。)

 

2.休息期間

  勤務終了後継続8時間以上とすること。

  住所地における休息期間 > それ以外の場所における休息期間 となるよう会社は努力すること。

 

3.運転時間

  ① 2日を平均・・・ 1日当たり 9時間  *「2日」とは始業時間から起算して48時間をいう

      ②2週間を平均・・・1週間当たり44時間

 

4.連続運転時間  *「連続運転時間」とは1回が連続10分以上で、かつ、合計が30分以上の運転の中断

            をすることなく連続して運転する時間のこと

  4時間を超えないこと

 

5.休日労働

  2週間について1回を超えないこと。

 

以上、「1.」~「5.」に書いてあることが原則でしたが、いかがでしょうか。

常に基準を意識して、乗務割を定めるようにして下さい。

 

次は、康診断未受診に対する行政処分です。

 

 

 

 

 

 

現行は、未受診者が全運転者の半数未満か否かで区分しており、また処分の内容も警告か10日車となっていますが、改正案では未受診者が1名で警告、2名で20日車、3名以上で40日車となっています。処分の対象範囲が広がるとともに、重さも2倍ではすまないほど重くなっています。

なお、現行の「健康診断未受診」の行政処分については下記表の通り(適用条項第6項の事項1の部分)です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

念のため健康診断の受診義務について、確認しておきましょうか。

 

健康診断の受診については、「一般貨物の運転者だから特別に受診義務がある」というわけではありません。

広く労働者全般に対して、健康診断を受診させることが義務付けられています。

一般貨物の運転者の方に関係がある健康診断の種類としましては、

 

1.雇入時の健康診断

2.定期健康診断

3.特定業務従事者の健康診断・・・深夜に働くことがある、常時使用する労働者に対し、6か月以内ごとに1回

 

が挙げられます。

上から順に、一つずつ見ていくことにします。

 

1.雇入時の健康診断

(原則)常時使用する労働者を雇い入れたときに、受診させる必要があります。

 

「常時使用する労働者」とは

・期間の定めのない労働契約により使用される労働者

・期間の定めのある労働契約により使用される労働者の場合は、1年以上使用されることが予定されている者

 のことをいいます。

 

なお、パートやアルバイトなどの短時間労働者であっても、その短時間労働者の1週間の労働時間数が、同種の

業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間の4分の3以上である場合は、健康診断を受診させる義務があります。

 

(例外)健康診断を受けたあと、3か月を経過しない労働者を雇い入れる場合に、その労働者が健康診断の結果

    を証明する書面を提出したときは、その健康診断の項目に相当する項目については、省略して行うこと

    ができます。

 

2.定期健康診断

(原則)常時使用する労働者に対し、1年以内ごとに1回、定期に受診させる必要があります。

 

「常時使用する労働者」とは

・期間の定めのない労働契約により使用される労働者

・期間の定めのある労働契約により使用される労働者の場合は、更新により1年以上使用されている者

 のことをいいます。

 

なお、パートやアルバイトなどの短時間労働者については、「1.雇入時の健康診断」に記載した取扱いと同じ

です。

 

(例外)雇入時の健康診断を受けた方については、その健康診断の実施の日から1年間に限り、その方が受けた

    健康診断の項目に相当する項目を省略して行うことができます。

 

3.特定業務従事者の健康診断

(原則)深夜に勤務することがある、常時使用する労働者に対し、6か月以内ごとに1回、定期に受診させる

    必要があります。

    深夜に勤務することがある業務に配置替えする場合は、配置換えの際に受診させる必要があります。

 

「常時使用する労働者」は、「2.定期健康診断」に記載したとおりです。

 

(例外)省略

 

 

 以上のように、運転者の方に関わりがある健康診断は大きく分けて3種類ありますが、該当する健康診断を受

 診させなければ運転者には選任できませんので、未受診の運転者がいれば、行政処分を受けてもやむなしとい

 うのが、今回の改正案の考え方でしょう。

 したがって、一般貨物の事業者様は、雇入時には「1.雇入時の健康診断」を、雇入れ後は「2.定期健康診

 断」か「3.特定業務従事者の健康診断」を、運転者の方に確実に受診させるようにして下さい。

 そして、健康診断は受診させることに意味があるのではなく、その結果を確認することに意味があります

 健康診断の結果、異常の所見があった場合は、運転業務に支障がないか、医師に相談すべきです。

「産業医」が選任されていれば、産業医に相談してみましょう。

 常時使用労働者が常時50人未満の事業場では「産業医」を選任する義務がありませんので、産業医がいない

 場合で、相談する医師や保健師がいなければ、「地域産業保健センター」の健康相談窓口を利用して医師に相

 談するなどの方法で、どのような措置をとるべきか、意見を受けましょう。

 

 最後に、健康診断の結果は、そのコピーを運転者台帳に綴じておきましょう。

 

次に、会保険等未加入に対する行政処分、といきたいところですが、容量の関係でここが限界のようです。

一旦、ここで区切りとし、続きはまた次回とします。

 

 

 

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