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行政書士
事務所は
一般貨物Q&A.その8.運送業の開業にあたり備えるべき要件は(人員編②)
このページでは、一般(又は特定)貨物自動車運送事業を開業するための要件のうち、人員に関わることについ
て書いていこうと思います。
Q37.一般貨物の運転者になるための要件を教えて下さい。
A37.「一般貨物の運転者になる」ということは、法令的には「事業者から運転者として選任される」という
ことになります。事業者から運転者として選任されていない人は、運転者とはなれません。
運転者として選任されるためには、
①常時選任運転者の要件に該当すること
②健康診断を受診していること
③適性診断を受診していること
④運転する自動車に対応する運転免許を保有していること
⑤社会保険等に加入義務がある場合は、加入していること
といった要件を満たしていなくてはなりません。
ということで、①から⑤の要件を一つずつご説明します。
①常時選任運転者の要件に該当すること
「常時選任運転者」という聞きなれない言葉が出てきましたが、一般貨物において、「輸送を行う自動車」の
運転者は「常時選任運転者」でなければならないとなっています。
「常時選任運転者」の要件として、以下のものに該当しないことが必要です。
×その1 日々、雇い入れられる者
×その2 二月以内の期間を定めて使用される者
×その3 試みの使用期間中の者(14日を超えて引き続き使用されるに至った者を除く)
その1は、日雇いの方は、常時選任運転者にはなれませんということです。
その2は、雇用期間を2か月以内の一定の期間と定めて雇用した労働者の方は、常時選任運転者にはなれない
ということです。
また、派遣先への派遣期間を2か月以内の一定の期間と定めて派遣契約をした派遣労働者の方は、
派遣先の常時選任運転者にはなれないということです。
その3は、試用期間中の新人のことです。この場合は、2か月以上の雇用期間を定めていたとしても、試用開
始から14日間は、常時選任運転者にはなれませんということです。
*必要な員数の「常時選任運転者」を選任していれば、常時選任運転者の要件を満たさない「それ以外の運転者」
に、「輸送のために自動車を運転させる」ことができるのか
輸送安全規則第3条1項、2項及び第20条1項1号の記載により、できないものと思われます。
(過労運転の防止)
第3条 一般貨物自動車運送事業者等は、事業計画に従い業務を行うに必要な員数の事業用自動車の運転
者(以下「運転者」という。)を常時選任しておかなければならない。
2 前項の規定により選任する運転者は、日々雇い入れられる者、二月以内の期間を定めて使用され
る者又は試みの使用期間中の者(十四日を超えて引き続き使用されるに至った者を除く。)で
あってはならない。
(運行管理者の業務)
第20条 運行管理者は、次に掲げる業務を行わなければならない。
一 一般貨物自動車運送事業者等により運転者として選任された者以外の者に事業用自動車を運転さ
せないこと。
(まとめ)
業務を行うために必要な員数の運転者を選任しなさい(3条1項)
↓ただし
選任する運転者は3条2項に該当してはならない(3条2項)
↓そして
選任した運転者以外に事業用自動車を運転させてはならない(20条)
②健康診断を受診していること
健康診断の受診については、「一般貨物の運転者だから特別に受診義務がある」というわけではありません。
広く労働者に対して健康診断の受診が義務付けられています。
一般貨物の運転者の方に関係がある健康診断の種類としましては、
1.雇入時の健康診断
2.定期健康診断
3.特定業務従事者の健康診断・・・深夜に働くことがある、常時使用する労働者に対し、6か月以内ごとに1
回
が挙げられます。
一つずつ、見ていくことにします。
1.雇入時の健康診断
(原則)常時使用する労働者を雇い入れたときに、受診させる必要があります。
「常時使用する労働者」とは
・期間の定めのない労働契約により使用される労働者
・期間の定めのある労働契約により使用される労働者の場合は、1年以上使用されることが予定されている者
のことをいいます。
なお、パートやアルバイトなどの短時間労働者であっても、その短時間労働者の1週間の労働時間数が、同
種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間の4分の3以上である場合は、健康診断を受診さ
せる義務があります。
(例外)健康診断を受けたあと、3か月を経過しない労働者を雇い入れる場合に、その労働者が健康診断の結果
を証明する書面を提出したときは、その健康診断の項目に相当する項目については、省略して行うこと
ができます。
2.定期健康診断
(原則)常時使用する労働者に対し、1年以内ごとに1回、定期に受診させる必要があります。
「常時使用する労働者」とは
・期間の定めのない労働契約により使用される労働者
・期間の定めのある労働契約により使用される労働者の場合は、更新により1年以上使用されている者
のことをいいます。
なお、パートやアルバイトなどの短時間労働者については、「1.雇入時の健康診断」に記載した取扱いと
同じです。
(例外)雇入時の健康診断を受けた方については、その健康診断の実施の日から1年間に限り、その方が受けた
健康診断の項目に相当する項目を省略して行うことができます。
3.特定業務従事者の健康診断
(原則)深夜に勤務することがある、常時使用する労働者に対し、6か月以内ごとに1回、定期に受診させる
必要があります。
深夜に勤務することがある業務に配置替えする場合は、配置換えの際に受診させる必要があります。
「常時使用する労働者」は、「2.定期健康診断」に記載したとおりです。
(例外)省略
以上のように、運転者の方に関わりがある健康診断は大きく分けて3種類ありますが、該当する健康診断を受
診させなければ運転者には選任できません。
雇入時には「1.雇入時の健康診断」を、雇入れ後は「2.定期健康診断」か「3.特定業務従事者の健康診
断」を、運転者の方には受診させるようにして下さい。
そして、健康診断は受診させることに意味があるのではなく、その結果を確認することに意味があります。
健康診断の結果、異常の所見があった場合は、運転業務に支障がないか、医師に相談すべきでしょう。
「産業医」が選任されていれば、産業医に相談してみましょう。
常時使用労働者が常時50人未満の事業場では「産業医」を選任する義務がありませんので、産業医がいない
場合で、相談する医師や保健師がいなければ、「産業医地域産業保健センター」の健康相談窓口を利用して医
師に相談するなどの方法で、どのような措置をとるべきか、意見を受けましょう。
最後に、健康診断の結果は、そのコピーを運転者台帳に綴じておきましょう。
③適性診断を受診していること
健康診断に似た言葉で「適性診断」というものがあります。
適性診断には、以下のとおり、法令上受診が義務付けられるものがありますので、該当する運転者には受診
させなければなりません。
これらの適性診断は、国土交通大臣の認定を受けた機関しか行うことができません。
愛知県ですと、NASVA(自動車事故対策機構)、愛知県トラック協会、ヤマト・スタッフ・サプライなど
が認定を受けて実施しています。
事前に受講申し込みの手続きをしていただき、受講して下さい。
1.初任診断 ・・・運転者として新たに雇用した者が、初めてトラックに乗務するまでに
2.適齢診断 ・・・運転者が65歳に達してから1年以内に、以後75歳に達するまでは3年に1回
3.特定診断Ⅰ・・・死者又は重傷者を生じた交通事故を引き起こした者で、その事故を起こす前1年間の間
に交通事故を引き起こしたことがない者
軽症者を生じた交通事故を引き起こした者で、その事故を起こす前3年間の間
に交通事故を引き起こしたことがある者
4.特定診断Ⅱ・・・死者又は重傷者を生じた交通事故を引き起こした者で、その事故を起こす前1年間の間
に交通事故を引き起こしたことがある者
適性診断も、受診させることに意味があるのではなく、その結果を確認することに意味があります。
適性診断の結果を運転者に理解させ、事業者や運行管理者からアドバイスを行うことが大切です。
最後に、適性診断の結果は、そのコピーを運転者台帳に綴じておきましょう。
④運転する自動車に対応する運転免許を保有していること
運転免許には、第1種免許と第2種免許(と仮免許)があります。
第2種免許というのは、「旅客自動車運送事業」や「運転代行業」の運転者に必要となる免許で、「貨物自動
車運送事業」の運転者は第1種免許があればよいです。
第1種免許には、大型免許、中型免許、準中型免許、普通免許、大型特殊免許、大型二輪免許、普通二輪免許、
小型特殊免許、原付免許がありますが、一般貨物の運転者さんに関係してくるのは、大型免許、中型免許、準
中型免許、普通免許です。
運転する自動車の車両総重量、最大積載量、乗車定員と対応する運転免許は以下を参照して下さい。
なお、牽引自動車によって被牽引自動車を牽引して牽引自動車を運転するには、別途「牽引免許」が必要です。
⑤社会保険等に加入義務がある場合は、加入していること
社会保険等に加入義務がある運転者は、社会保険等に加入していただく必要があります。
加入義務者が未加入の状態にならないよう、年金事務所などで資格取得等の手続きを確実にとりましょう。
【加入義務のある方】
1.健康保険・厚生年金保険(以下①と②のいずれかに該当する方)
適用事業所(運送事業者)に常時使用される方のうち、
①1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事している一般社員の4分
の3以上である方
②1週間の所定労働時間 が 20時間以上あり、
雇用期間 が 1年以上見込まれ、
賃金の月額 が 8.8万円以上あり、
学生ではなく
常時501人以上の企業(特定適用事業所)に勤めている方
*以下に該当する方は、常時使用される方とはいえないため、加入義務がありません。
・日々雇入れられる方(ただし、1か月を超えて引き続き使用されるようになった場合は、その日から加入義務)
・2か月以内の期間を定めて使用される方(ただし、所定の期間を超えて引き続き使用されるようになった場合
は、その日から加入義務)
・所在地が一定しない事業所に使用される方
・季節的業務(4か月以内)に使用される方(ただし、継続して4か月を超える予定で使用される場合は、初めか
ら加入義務)
・臨時的事業の事業所(6か月以内)に使用される方(ただし、継続して6か月を超える予定で使用される場合
は、初めから加入義務)
*70歳以上の方は、厚生年金保険には加入できませんので、健康保険にのみ加入義務があります。
2.雇用保険(以下①と②のいずれにも該当する方)
①31日以上引き続き雇用されることが見込まれる者であること
②1週間の所定労働時間が20時間以上であること
【手続きの方法】
設立したばかりの法人の原則的な加入手続きについて簡単にご説明すると、以下のとおりです。
詳細については、各官署のホームページをご覧いただくか、お問合せ下さい。
新規適用届
健康保険・厚生年金保険・・・被保険者資格取得届 等 を 事業所を管轄する年金事務所に提出
被扶養者異動届
労災保険 ・・・保険関係成立届 等 を 事業所を管轄する労働基準監督署に提出
労働保険概算保険料申告書
雇用保険 ・・・雇用保険適用事業所設置届 等 を 事業所を管轄するハローワークに提出
雇用保険被保険者資格取得届
Q38.今日の記事のソースを教えて下さい。
A38.以下の参照条文をご覧下さい。
このページに書いてあることが「ガセではないか?」と疑われるといけないので、最後に、参照条文をご案内
します。
必要な員数の常時選任運転者の選任義務については輸送安全規則3条1項、常時選任運転者の要件は同3条2
項、健康診断の受診については労働安全衛生規則43条、44条、45条、13条1項2号(ヌ)、運転者台
帳の記載事項については輸送安全規則9条の5、適性診断の受診については輸送安全規則10条2項、運転免
許については道路交通法84条、85条、同施行規則2条を参照して下さい。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
町
の行政書士
事務所です