「 一般貨物の時事」は、一般貨物自動車運送事業に関する様々な時事テーマをピックアップして、知識や情報を提供することを目的としたページです。
本ページを読んで、ご覧のみなさまが現在直面している問題やお悩みが解決すれば、幸いです。
なお、参考までに貨物自動車運送事業法などの法令の規定を一部掲載することがございますが、本題から脱線してしまっている個所もございますので、読み飛ばしていただいても構いません。
今回は、令和元年11月1日から改正が予定されている、中部運輸局公示第277号について、
(1)一体何が変わるのか
(2)このたびの中部運輸局公示第277号の改正により、運輸支局で何らかの手続きをする必要があるのか
について、ご案内申し上げます。
はじめに ~ 中部運輸局公示第277号とは ~
中部運輸局公示第277号とは、
一般貨物自動車運送事業及び特定貨物自動車運送事業の
①許可
②事業計画の変更に関する認可
③事業計画の変更の届出
に関する審査の適合基準を定めたものです。
具体的にどのようなものが定められているかと申しますと、当ホームページの一般貨物Q&Aに書かれているようなことが、箇条書きで記載されています。
この中部運輸局公示第277号に書かれている審査基準を満たさない場合は、申請をしても許可や認可を受けることができませんし、届出も受理されません。
このように、中部運輸局公示第277号は一般貨物(特定貨物)に関する行政手続の要件を定めたものとして、実務上、非常に大きな意味を持つものでございますが、この公示の中身の一部が、令和元年11月1日から改正されます。
このたびの改正は、これから許可を受けようとお考えの方はもちろん、既存の一般貨物(特定貨物)自動車運送事業者様にも関係するものがございます。
これから許可を受けようとお考えの方には「本ページの記事」で、既存事業者の方には「次回の記事」で、それぞれ改正の内容をお知らせ致します。
Q.中部運輸局公示第277号が定める許可の審査基準については、令和元年11月1日から、一体何が変わるのですか?
A.これから一般貨物(特定貨物)の許可を受けようとお考えの方に関係がある変更事項には、以下のものがあります。
令和元年11月1日以降に許可の申請をする案件から適用されます。
変更点その1 ~ 営業所、休憩・睡眠施設、自動車車庫を借用する場合の契約期間の伸長 ~
営業所、休憩施設、睡眠施設、自動車車庫を借用する場合、契約期間は
従来の審査基準では 「概ねおおむね1年以上」必要とされておりましたが、
改正後の審査基準では 「概ねおおむね2年以上」必要であると変更されました。
したがって、許可を受けるために営業所などを借用される方は、その契約期間にご注意いただく必要があります。
もっとも、自動更新の定めがある場合(契約期間が満了した場合でも、契約が自動的に更新されるものと認められる場合)は、たとえ契約期間が2年未満であっても審査基準を満たすという取扱いがされます(これについては改正前からの取扱いが変わりませんでした)。
上記に関する公示
(1)使用権
(1)使用権
(1)使用権
(1)使用権
変更点その2 ~ 営業所、休憩施設、自動車車庫の写真の提出 ~
営業所、休憩施設、自動車車庫について、一般貨物(特定貨物)で適正に使用できる状況が整っていることを明らかにするために、改正前から「写真」の提出が必要でした。
ただ、これまでの公示ではそのことが明記されていなかったため、このたびの改正により公示に明記されました。
そして、提出が必要な写真は、
❶営業所、休憩施設については、必要な備品が備えられていることが確認できる写真
❷自動車車庫については、事業用自動車を適切に収容できることが確認できる写真
と定められました。
なお、許可の申請時点では❶❷の写真を提出できないケースが考えられますが、そのようなケースでは「特段の事情がある場合は、事後に」写真の提出をすることが許される取扱いです。
どのような場合に「特段の事情がある場合」と認められるのかは明らかにされておりませんが、公示にある「一般(特定)貨物自動車運送事業の運輸開始届出書」の添付書類に「営業所等について事業遂行上適切な施設であることがわかる写真(ただし、提出済みの場合については不要です。)」とありますので、最も遅い提出時期として、運輸開始届出書の提出の場面を想定しているものと考えられます(ちなみに運輸開始届出書を提出する時期は、運送事業を現実にスタートする直前です)。
上記に関する公示
(3)規模
変更点その3 ~ 人件費、燃料・修繕費、車両購入費の計上額の倍増 ~
これが今回の改正で、もっとも影響が大きいと思われる事項です。
一般貨物(特定貨物)の許可を受ける要件の一つに、「所要資金以上の自己資金があること」というものがございます。
ここでいう「所要資金」は、「事業の開始に要する資金及び調達方法(様式例2)」という運輸局所定の表形式の書類の各項目にご自身で金額等を記入し、各項目の計算式にしたがって計算して算出した合計額のことをいいます。
この各項目の計算が、以下のように変更されました。
項目 | 改正前 | 改正後 |
役員報酬 | 役員報酬の2か月分を計上 | 役員報酬の6か月分を計上 |
給与 | 給与の2か月分を計上 | 給与の6か月分を計上 |
手当 | 手当の2か月分を計上 | 手当の6か月分を計上 |
賞与 | 賞与の2か月分を計上 | 賞与の6か月分を計上 |
燃料費 | 2カ月分を計上 | 6か月分を計上 |
修繕費 | 2か月分を計上 | 6か月分を計上 |
車両購入費(分割で購入した場合) | 頭金及び6か月分の割賦金を計上 | 頭金及び1年分の割賦金を計上 |
車両リース料 |
リース料の6か月分を計上 | リース料の1年分を計上 |
土地・建物購入費(分割で購入した場合) |
頭金及び6か月分の割賦金を計上 | 頭金及び1年分の割賦金を計上 |
土地・建物賃借料 |
賃借料の6か月分を計上 | 賃借料の1年分を計上 |
以上、見ていただきますとわかるように、
人件費、燃料費、修繕費・・・改正前の3倍
車両・土地・建物調達費・・・改正前の2倍
で計算することとなりました。
これにより、令和元年11月1日以降の一般貨物(特定貨物)への新規参入は、敷居が相当高くなりました。
例えば、
一般貨物(特定貨物)に専従する役員 × 1名
運転者 × 5名
運行管理者・整備管理者 × 0名(∵役員が兼務する)
という極めて小規模の事業者を想定しても、6名の人件費がかかります。
役員報酬1名分、給与・手当5名分の総額の1カ月平均が仮に150万円とした場合、改正前は2か月分で300万円を所要資金として計上すればよかったものが、改正後は6か月分で900万円を計上しなければならなくなります。
この例で考えると、令和元年11月1日以降に許可の申請をする場合、必要とされる自己資金の額(=預貯金の額)が、改正前よりも人件費だけで600万円増えることになります。
これに加えて、燃料費、修繕費も3倍に、さらに車両の分割での購入費や車両リース料、土地・建物の分割での購入費や賃借料も倍になりますので、今後は自己資金が用意できないことを理由に、許可を受けることをあきらめなければならないケースが増加するのではないかと予想されます。
上記に関する公示
費目 | 内容 |
人件費 | 役員報酬を含む6ヶ月分 |
燃料油脂費及び修繕費 | 燃料油脂費及び修繕費のそれぞれ6ヶ月分 |
車両費 | 取得価格(分割の場合は頭金及び1ヶ年分の割賦金)又は1ヶ年分のリース料 |
建物費 | 取得価格(分割の場合は頭金及び1ヶ年分の割賦金)又は1ヶ年分の賃借料及び敷金等 |
土地費 | 取得価格(分割の場合は頭金及び1ヶ年分の割賦金)又は1ヶ年分の賃借料 |
器具、工具、什器、備品等 | 取得価格(割賦未払金を含む。) |
保険料 | 自賠責保険料、任意保険料及び危険物を取扱う運送の場合は、当該危険物に対応する賠償責任保険料のそれぞれ1ヶ年分 |
各種税 | 自動車税及び自動車重量税のそれぞれ1ヶ年分、環境性能割及び登録免許税等 |
その他 | 道路使用料、光熱水料、通信費、広告宣伝費等の2ヶ月分 |
変更点その4 ~運送事業の施設の使用停止等の行政処分を受けた方の排除期間の伸長~
❶ 許可を受けるために申請をする個人
❷ 許可を受けるために申請をする法人(≒会社)
❸ ❷の業務を執行する役員など
が、申請日から遡ること6か月以内および申請日以降に、自動車その他輸送施設の使用停止以上の処分または使用制限(禁止)の行政処分を受けた場合は、許可を受けることができません。
*改正前は6か月の部分が3か月でした。
また、違反が悪質なものについては、申請日から遡ること1年以内におよび申請日以降に、自動車その他輸送施設の使用停止以上の処分または使用制限(禁止)の行政処分を受けた場合は、許可を受けることができません。
*改正前は、1年の部分が6か月でした。
上記に関する公示
日以降に、自動車その他輸送施設の使用停止以上の処分又は使用制限(禁止)の処分を受けた者(当該処分を受けた者が法人である場合における処分を受けた法人の処分を受ける原因となった事項が発生した当時現にその法人の業務を執行する役員として在任した者を含む。)ではなく、その旨の宣誓書の提出があること。
ⅰ 違反事実若しくはこれを証するものを隠滅し、又は隠滅すると疑うに足りる相当の理由が認められる場合。
ⅱ 飲酒運転、ひき逃げ等の悪質な違反行為又は社会的影響のある事故を引き起こした場合。
ⅲ 事業の停止処分の場合。
変更点その5 ~対物保険200万円以上の義務化~
事業用自動車の任意保険については、事業用自動車100両以下の事業者につき、改正前は
対人については保険金の限度額が無制限の保険に加入すること
のみが許可の要件とされてきましたが、改正後は、上記に加えて
対物については保険金の限度額が200万円以上の保険に加入すること
も許可の要件とされました。
上記に関する公示
変更点その6 ~欠格事由の範囲の拡大~
欠格事由についても範囲が拡大されることになりました。
詳細については、一般貨物Q&Aその11をご覧ください。
上記に関する公示
変更点その7 ~特定貨物の事業用自動車の車両数~
特定貨物についても、一般貨物と同様に事業用自動車の台数は5両以上であることが要件であり、この取扱いは従前から変わりません。
ただ、改正により「特定の運送需要者の輸送量など実情に応じて中部運輸局長が個別に認める場合においては、この限りでない。」という記載が追加されました。
どのような場合に中部運輸局長の個別の認定を受けられるのかについての詳細は不明ですが、特定貨物の場合は一般貨物よりも事業用自動車の車両数の審査が、ケースに応じて柔軟になされる余地があるということだと思われます。
上記に関する公示
変更点その8 ~特定貨物の要件に資金計画を追加~
特定貨物の許可において、改正前は資金計画が審査項目に入っていませんでしたが、改正により一般貨物と同様の資金計画が審査項目となりました。
つまり、特定貨物の許可においても、一般貨物と同様に 変更点その3でご案内した内容で審査を受けることになります。
上記に関する公示
以上が、新規許可に関する令和元年11月1日改正の主な変更点です。
運輸行政は貨物運送の新規参入について、制限する方向に舵をきりました。
これまでも、3PLの推進や原価計算の促進、運賃と料金の別建ての義務化、荷主への勧告制度の導入などに加え、行政処分を多数実施するなど、運送事業者の社会的・経済的地位の向上及び輸送の安全の確保のためにさまざまな方策を練り、制度化・実現化してきました。
今回の改正は新規事業者の参入をこれまでよりも制限することで「運送事業者間の自由な競争を多少なりとも制限することになる」わけですが、それ自体は間違っていることだとは思いません。
価格競争をはじめとする運送事業者間の競争は、現状、かなり苦しいものと推察します。
ただ、貨物運送が主たるサービスではなくても、貨物自動車運送事業法第2条の貨物自動車運送事業の定義に該当してしまうため、許可を受けざるをえないという事業者様も少なからずおみえになります。
そのような方にとっても、一般貨物や特定貨物の許可を受けることが困難になるということを、今回の改正は想定して行われるのか、少々疑問に思うところであります。
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